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2024.2.5
登場人物のクロスオーバーについて

伊坂幸太郎の小説には、シリーズ物ではなくても、作品を跨って登場人物が出てくることがあります。
こっちの主人公があっちの脇役になったり、あっちの主人公がそっちでカメオ出演したりとといった感じです。

 

たとえば、

『オーデュボンの祈り』の主人公、伊藤が、『重力ピエロ』に通りすがりの人物として登場。

同じく、伊藤が短編「動物園のエンジン」(『フィッシュストーリー』収録)に主人公の電話相手として出てくる。

『重力ピエロ』に出てくる春が『死神の精度』の中のある短編で死神の千葉と会話を交わす。

『アヒルと鴨のコインロッカー』の主人公、椎名が、『陽気なギャング』シリーズの祥子の甥。

といった具合です。

 

特に初期の頃の作品に多い印象ですが、インタビューでは

「島田荘司さんや夢枕獏さんの作品群でそういうことを楽しんだので、同じようなことをやりたかった」
「一作目の『オーデュボンの祈り』が売れたわけではなかったので、読んでくれた人へのお礼というか、サービスのつもり」
「『オーデュボンの祈り』が、案山子が喋るという突飛な話だったので、それをもっと現実的な話とつなげることで、リアリティを持たせたかった 」

等と説明されています。

 

ご本人曰く、「意図していない点を深読みされる怖さがあり、そういった趣向はやめていた時期もあるのですが、十年くらい前から、それもまた読む人の楽しみなのかもしれないと思い直し、新作を書く時に別作品の登場人物を関わらせることも増えてきました」とのこと。

 

ちなみに、伊坂さんがご自分で気に入っている、別作品からの出張出演は何ですかと訊ねると、

『ガソリン生活』の文庫版のカバー裏の掌編小説「ガソリンスタンド」(初版のみに掲載)に、『キャプテンサンダーボルト』の主人公、相葉の乗る(と思しき)ポンティアック・トランザムが登場するところ。

『ペッパーズ・ゴースト』の一場面に、『ガソリン生活』の緑デミと思しきデミオが登場するところ。

とお答えがありました。

 

そして、それらのクロスオーバー的な登場の仕方とは少し違った存在として、「田中」がいます。

 

「田中」はたくさんの作品に登場していますが、いずれも同じ人物というわけではなく、名前は「田中」であってもそれぞれ別人物と思われます。

これまでの作品で、「田中」が出てきたものを挙げると以下のような感じです。

長編
『オーデュボンの祈り』
『陽気なギャング』シリーズ
『魔王』
『ゴールデンスランバー』
『モダンタイムス』
『SOSの猿』
『オー!ファーザー』
『PK』
『残り全部バケーション』
『死神の浮力』
『アイネクライネナハトムジーク』
『キャプテンサンダーボルト』
『クジラアタマの王様』

短編・中編
「首折り男の周辺」(『首折り男のための協奏曲』収録)
「二月下旬から三月上旬」(『ジャイロスコープ』収録)
「スピンモンスター」(『シーソーモンスター』収録)
「Have a nice day!」(アンソロジー『時ひらく』収録)

 

登場する田中さんは片脚に怪我を負っていたり、もしくは何らかの事情で足を引き摺っていたりすることが多いのですが 、それ以外、外見が似通っている印象はありません。

たっぷり出てくることもあれば、一瞬だけ登場することもありますが、ストーリーにおいて少し重要な、キーマン的な存在になることが多いようにも感じます。
映画やアニメであれば、田中さん登場場面集が作れそうですが、小説では難しいのが残念です。どの作品に登場する田中さんが好きですか? というアンケートをしても面白そうです。

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