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伊坂さん本人は、「毎回、新しいお話を書きたいから、シリーズ物にはあまり興味がない」とおっしゃっていますが、一応、シリーズ物とされているものについて、いくつか裏話を交えて解説します。
今回は、「陽気なギャング」のシリーズについてです。
2024年現在
の3作品が発表されています。
伊坂さん自身、インタビューでは、「自分の中で、シリーズ物と呼べるのは、『陽気なギャング』だけかもしれない」と言っていますので、これは公式的に、「シリーズ物」と呼んで差し支えないかと思います。
もともとは、伊坂さんが25歳の時、文藝春秋主催の第13回サントリーミステリー大賞で佳作を受賞した『悪党たちが目にしみる』が原型になっていると言われています。
『悪党たちが目にしみる』の詳細について伊坂さんに聞いてみますと
・主人公の4人組は全員男性で、成瀬、響野、久遠は現シリーズと同じく登場しているが、雪子は、氷山{ひやま}という男だった。
・序盤で強盗をする展開は、『陽気なギャングが地球を回す』と同じだが、用意していた車のトランクに子供が入っていたことで、誘拐事件に巻き込まれるというあらすじ。
・成瀬の「嘘を見抜く」能力や、久遠のスリの能力はなかった。
・ストーリーの重要部分に、久遠の過去が関係していた。
ということらしく、大きな枠組みは近いものの、ストーリーはまったくの別物のようです。当時、サントリーミステリー大賞では読者選考委員用に、最終候補作が製本されていたようですので今もお持ちの方がいたら貴重かもしれません。
伊坂さんに当時のことを聞くと
「祥伝社のHさんが『悪党たちが目にしみる』を読んでくれて、『面白かった!』と電話をくれたので、本にしてもらえるんだ!と嬉しかったけれど、すぐに、『だけど、このまま同じストーリーで書くのは新人作家として志が低いから、新しいストーリーを考えよう』『4人組のうち1人は女性にしてもいいかも』『特殊な能力をほかのメンバーにも持たせよう』と言われて、ほぼ全部書き直しじゃん、甘くないんだなと実感したのを覚えています」と言っていました。
シリーズのタイトルはすべて13文字で統一されているのですが、伊坂さん曰く、「2作目にたまたま、『に(2)』という言葉が入っていたので("日常"の"に")、3作目は「3」を入れたくて悩みました。陽気なギャングは三人揃えば文殊の知恵、とか。あと、『陽気なギャング』の次の助詞も、"が"、"の"、"は"と変えているので、四作目を書くとするとまた大変かも」とのこと。
ちなみに、どの作品にも冒頭に、「銀行強盗は四人いる。」のフレーズで終わる短い文章が書かれたページがありますが、これはもともとは本文の最初の地の文として書かれていたもののようです。原稿ができあがった後で担当編集者が、「これ面白いから、独立させようよ」とデザインしたものだそうです。
伊坂さんからのコメント
「20代前半、ドナルド・E・ウェストレイクのドートマンダーシリーズの存在と概要は知っていて、読みたかったのですが、当時は絶版だったので、こんな雰囲気なのかなあ、と想像しながら書いたのが、ギャングのシリーズでした。のちに角川文庫で復刊されて読んだら、かなり雰囲気が違いました(笑)。でも、ドートマンダーとケルプや仲間たちの雰囲気が良くて、その、楽しければそれでいいでしょ、というスタイルに憧れて、『陽気なギャングは三つ数えろ』とかはむしろ、そちらに近づけている気がします。個人的には、この3作目が一番完成度が高いと思っているんですよね」
「シリーズ続編については、今のところほかの仕事をやらなくてはいけないので予定が立っていないのですが、これに関しては、四作目を書きたい気持ちはなくもなくて。ただ、だんだん、4人組に強盗させるのも気がひけるというか、犯罪者にしたくない気持ちも出てきていて、難しいんですよね」
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